人の優しさに触れた瞬間

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大規模な老人ホームにいた頃は、入居者の人数も半端なく多かったので、毎日が賑やかでお祭りのようでした。大変と言えば、大変だったかもしれませんが、その分楽しかった思い出もたくさんあります。また、在職している職員もとても多かったので、最後まで全員の名前を覚えることが出来ませんでした。

人数が多いだけあって、職員同士の派閥も出来ていましたが、そこまで緊迫したものではなく、存外楽しい職員たちだったと思います。職員とのコミュニケーションも当然大事なことでしたが、それ以上に大事で、そして大変だったことが、やはり入居者の方々です。

個性的な入居者

さすがにたくさんの方々が入居されているだけあって、色々な方々がいらっしゃいました。
いつもニコニコしていて笑っているお爺さんや、いつも怒鳴っているお婆さんもいましたし、
あまり人との関わりを持とうとしないお爺さんもいらっしゃいました。

まだまだ、挙げてしまえばキリがないほどですが、個性的な方々が多かった印象があります。
実は私、怒られるが大嫌いだったので、さっき挙げたいつも怒鳴っているお婆さんがとても苦手でした。

毎日顔を合わせる度に強い口調で怒鳴られるので、一番最初は非常に驚いたんです。
別の先輩スタッフさんから後で聞いた話だと、入居当初からずっとだと言っていたので、
そういう性格の人なんだと何とか割り切って応対をしていました。

さすがに、好き嫌いでお世話は出来ませんので、腫れ物に触るような感じでお世話をしていたと思います。
最初はそんな感じで当たり障りのないようにお世話をしていましたが、そのうち「このままじゃあ駄目だ」と
考え改めるようにもなりました。

きっと、この介護職をしていれば、これからもっとたくさんの方々と出会うことにもなるでしょうし、
もっと気性の荒い方を担当することだってあると思います。何よりも、一方的に距離を置いて
表面上だけで付き合おうとする自分に嫌気が差してきたのもありました。

もしかしたら、変わるきっかけが欲しかったのかもしれせん。
その日から、私は積極的にそのお婆さんに話しかけるようになりました。

挨拶は毎日の恒例でもありましたが、挨拶の外にも、今日の気分だとか、
何か困っていることはないかだとか、簡単な質問から入って、少しでも打ち解けられるように努めたんです。
確かに最初は相変わらず邪険にされましたが、何度も何度も根気良く話し掛けていく内に、
そのお婆さんは怒鳴る回数が減ってきたような気がしました。

そのうち、趣味の話だとか、好きな食べ物の話だとか、今朝見たニュースで感じたこととか、
その日のレクリエーションについての話だとか、込み入った話もするようになって来たと思います。
日に日に、機嫌の悪そうな表情が薄くなってきて、何だか柔らかい雰囲気を醸し出すようになったんです。
その頃くらいから、お婆さんは私を苗字ではなく、名前で呼ぶようになりました。

私も、それに応えようと思って、お婆さんを苗字ではなく名前で呼ぼうと思ったんです。
会話を増やして、親交を深めて行くうちに、そのお婆さんは老人ホームに来る前に家族と
色々ないさかいがあったことを話してくれました。

入居者も人間なんです

ここではあまり詳しい話は掛けませんが、このとき私は人が怒るにも喜ぶにも、
必ずしも何か理由が存在することをようやく身にしみて実感したんです。
理由もなく不機嫌な人なんていません。

それと同じように、理由もなく喜んでいる人だっていません。
老人ホームに来た方々を、ただ学んだ通りの手順に沿って、
ただ機械的にお世話をすることはきっと誰でも出来ることでしょう。

しかし、ただ機械的にお世話をするだけならば、老人ホームなんていらないのです。
いつまでもずっと楽しい気持ちで、そして快適な気分でいられるように、最後の最後まで笑顔で
楽しくお世話をすることが、介護をする者としてのあるべき姿ではないかと思います。

実は、この一連の体験が、私が老人ホームを経営したいと志したきっかけの一つだったりします。
ただ、無感情で流れ作業のままお世話をしないで、アットホームで、来る人全員が温かくで、
いつまでもいたいと思えるような老人ホームを経営することが、現在の夢です。

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