マニュアルと安全

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どこの老人ホームでも、どこの介護福祉施設でも、介護士としてその施設に勤めているのならば、惰性で勤めて良いものではありません。お年寄りの方々のお世話と聞けば、簡単そうに聞こえるかもしれませんが、そういうわけでもないんです。

介護をすると言うことは、自分がその方々の体の一部となって、日常生活に不備がないようにサポートをすることでもあるんです。つまり、相手の命を支えていると言っても過言ではないでしょう。

これはとても大事なことでもあります。学校で学んだ通りにお世話をしたからと言って、
必ずしもその方法が最善であるとも限りません。時には、自分の判断力に委ねられることだってあります。
数年前に私が勤務していた老人ホームで、こんなことがありました。

倒れたおじいさん

当事者は私の後輩の当たる子です。
このとき勤めていた老人ホームは、24時間体制の住居型有料老人ホームです。
その日は、その後輩が他の先輩職員と一緒に夜勤を担当していました。

深夜の呼び出しは特に珍しいものでもないので、いつもと変わりなく二人は業務をこなしていたんです。
日付も過ぎた真夜中のこと、とある入居者から呼び出しがありました。

対応に行ったのは後輩です。
きっとトイレ関連のお世話だろうと思って後輩が向かった先には、
なんとベッドから半分落ちかけたお爺さんが倒れ込んでいたんです。

もちろん、ただごとではありませんので、後輩はすぐに救急車を呼びました。
また、その場で患者の容態を即座に判断して、応急処置を素早くしておいたので、
無事に一命と取り留めることが出来たそうなんです。

後輩の行動が問題に?

まるでドラマのような展開を思わせる出来事でしたが、
実はその後輩はマニュアルに背いた行動をしてしまったので、少々問題にもなったそうなんです。
と、言うのが、応急処置に関しては自分一人では判断せず、一人以上のスタッフにも診てもらって、
本当にそのやり方で問題がないかを確かめてから処置を施すようにという規則があったんです。

今回は、運良く分かりやすい症状で処置も的確に行えたので良かったですが、
これがもし少しでもやり方を間違っていれば大問題に発展していたので、
後輩も少し落ち込んでいました。それでも、その後輩の機転はとても素晴らしいものだと思います。
その応急処置があと一分でも遅くなっていたら、どうなっていたかも分かりません。

経過だけを見れば危険極まりない行為だったのかもしれませんが、
人を救うために物怖じせずに自分を信じて応急処置をした後輩は
とても勇気のある行動をしたと思います。

マニュアルは、スタッフそして入居者を守るためにあるものです。
しかし、相手の命の危機が迫っている瀬戸際で、マニュアルと照らし合わせて
あれこれといちゃもんを付けている暇なんてありません。

一分一秒を左右する事態で、
マニュアルを重視してしまったばかりに取り返しの付かないことになってしまっては、
何のためにマニュアルが存在するのかさえ分かりません。確かにマニュアルは大事ですが、
それと同じくらい、いざというときに的確な判断が下せる自分の判断力も
大事になってくると思います。

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